本に溺れていたい

基本的には本の話。他にも色々書くけど。

人生の根幹を優しくさする小説 中村航著 100回泣くこと

今週のお題「プレゼントしたい本」

 

読書の秋の語源は、古代中国の詩「灯火親しむべし」だそうだ。

秋は気温も調度よく、夜に火を灯して読書をするのに最適だと。
今の時代、部屋の中の温度は一定でいつ読書をしてもたいして変わらない。
だからこそ、窓を開けて、緑のある場所へ足を運んで、読書をするのもいいのかもしれない。

今日は中村航さんの『100回泣くこと』を紹介する。
恋愛小説の枠におさまらない、人生の根幹を優しくさするそんな小説

 

 

いつから僕らは終わりを意識するようになったのだろうか。
小学生の頃、授業の終わりを告げるチャイムが待ち遠しかった。
中学生の頃、テスト最終日は好きなだけゲームができた。
高校生の頃、文化祭の最終日僕は何を片付けていたのだろう。
大学生の頃、公開日を半年待っていた映画の2時間が終わった。
22歳の頃、これから先ずっと一緒という約束が終わった。
28歳になる冬、今年ももうすぐ終わろうとしている。

 

  • 知識は僕に語りかける。全ては終わるのが大前提なのだと。いつか訪れる終わりを前提にした、生であり愛なのだと。そういう道理なのだと。 だからこそ僕らの楽観は、約束されているんだと思う。そうじゃなきゃ誰もどこにも行けるはずがない。(本文より抜粋)

終わりは僕らに迫ってくる。悲しみと喜びどちらの割合が多いだろう?いつから終わりは悲しいことになったのだろう?知識が僕らに語りかけるのだ。誰にも等しく待っている終わりこそ「死」であり、そこに向けて僕らは進んでいる。

 

  • 僕らは同じプロジェクトに属する最小単位のユニットだった。プロジェクトの名はハッピネス。僕らは壁にもたれながらスケッチブックを眺めた。ときどき笑い、ときどき黙り、ときどきキスをして、ときどき指相撲をした。 (本文より抜粋)

中村航さんの着眼点は非常に興味深い。何気ない日常を綺麗にトリミングして、しかるべきところに張り付ける。日本中どこを歩いても同じ光景が広がっている。コンビニもスーパーも全国展開になりつつあり、同じ配色の看板が立ち並ぶ。その中で生活する僕らも代わり映えのない生活を送り続ける。そして、非日常を本や映画、ドラマに求める。でも、本当に本当に本当にそうなのだろうか?辟易している日常にもう一度温もりを。

 

  • 読む前と読んだ後で、見えるものとか感じられるものとかが、少し変化した気になるような本が、いい本だと思うんです。 (インタビューより)

中村航さんがインタビューでこう語っている。部品工場の検品作業では、厳しい基準によって不良品は選定され除外される。それと同じように僕らは、口に入れるもの、身に着けるもの、手に取るもの選ぶ。機械的な基準を持たなくたっていいじゃないか。 少し変化した気になるような――こういう基準を僕は持ちたい。